地域のネットワークづくり
この言葉は、福祉に携わる人ならば恐らく全員が耳タコ状態の“よくある会話”です。
では一体、どんなことを指すのでしょうか?
と聞かれると、実際には明確なカタチが残念ながらないんですよね。
障害福祉サービスを利用される障害をお持ちの方は、それぞれに“困りごと”を抱え、日常生活や経済活動を自身の力だけでは成立させることができません。
その手助けをさせていただくのが障害福祉サービスなのですが、当然地域のリソースには限界があるわけです。
しかも現在では精神障害や発達障害など、障害の種類も複雑化してきただけでなく、大人になってから発症及び発覚することも増えてきました。
すると、ただでさえ限られたリソースの中で支援の手からこぼれてしまう人達が出てしまうのです。
全く障害福祉サービスに結びつくことが出来ていない方もいらっしゃれば、生活の一部で支障が出てしまう方もいらっしゃいます。
例えば、当法人の桑の実クラブのような作業訓練をする施設で担当するのは基本的に平日昼間の時間帯です。その昼間の時間帯は過ごせていても、一人暮らしの家庭では生活が乱れてしまっていたり、ご実家で高齢のご両親が必死に面倒を見ていて先を考えなければいけないけど、そこを支援するリソースがなかったり本人の希望がなかったりといった千差万別の事情があるわけです。
近年では本当に障害も事例も細分化されてきて、これまでの障害福祉サービスの枠の中では支援しきれないケースも増えてきました。
そこで出てくる言葉が、「地域ネットワーク」です。
これは要するに、「足りないところは地域の人たちで助け合おうよ!」というニュアンスなんです。
ご近所付き合いの中で、子供の面倒を見ていたように、おじいちゃんおばあちゃんの様子を気にしていたように、困りごとがある人は支援するプロだけでなくて近くにいる人みんなで助けよう!ってことです。
つまり、本来的には地域ネットワークなんて名前ではなく、至って普通の光景のひとつだったはずです。しかし、残念ながら今の現状で強固な地域ネットワークを構築出来ている事例はほとんどないでしょう。
ではなぜ、ご近所とのつながりを私たちはほとんど感じなくなってしまったのでしょうか。
様々な理由がありますが、その中のひとつに“障害が細分化されたから”ということも挙げられると思います。
そもそも、様々な症状の事例が積み重なり、研究が進むことで、これまで理解されなかった方の障害を理解することが出来るようになってきました。
これは大きなメリットなのですが同時に、カテゴライズするということは“あちら側”と“こちら側”を分けてしまう行為だとも捉えられるんです。
例えば、痩せているか太っているか、という言葉で分けてしまえばたった2つのカテゴリに人の体型を分けてしまうこともできますが、実際には痩せていると太っているの間には連続性があり、どちらではない人もたくさんいるし程度も全然違うわけです。
カテゴライズというのは便利でわかりやすいのですが反面、連続性を見失う可能性も大きくあるのです。
障害も同じなんです。私たちは“障害者”と“健常者”とを分けて、あちら側とこちら側と考えてしまいがちです。障害者と健常者の間には大きな壁があるように感じる方も多いかもしれません。しかしながら、実際には違います。
障害も連続性のあるもので、例えば、目が見えない人は障害者と言われますし、極端な弱視も障害者と言われるでしょう。では、視力が低い人は?
メガネやコンタクトがないと生活がままならないくらいの視力の人は世の中にたくさんいるでしょうがこれを障害とは言いません。
道具がないと生活できないという意味では義手や義足や車いすとメガネやコンタクト、この差はどこにあるんでしょうか?
地域ネットワークという言葉の実現は、仕組みや制度の構築では実現できません。
こういった小さな誤解を少しずつ解いていき、当たり前のように近くに人に興味を持つ“文化”そのものなんです。
私自身も普段生活をしていて、あちら側とこちら側で知らず知らずのうちに分けてしまっていることが少なくないです。
もし、あなたの生活の中でうまくいっていない人間関係があったとしたら、自分が相手のことを“カテゴライズ”してしまっていないか?と考えてみると少し違った視点に気づけるかもしれません。
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